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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和47年(ワ)169号 判決 1973年5月25日

原告

戸田宝

ほか三名

被告

原田勝雄

ほか一名

主文

被告らは各自原告戸田宝に対し金三五万八、五一五円同戸田千代子、同白石寿子、同岡本満子に対し各金九万六、〇八九円及びこれに対する被告原田勝雄は昭和四七年九月一六日から、同知多産業運輸株式会社は同月一四日から、それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は二〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

被告らは各自原告戸田宝に対し金三四九万六、〇一〇円、同戸田千代子、同白石寿子、同岡本満子に対し各金二二八万六、〇七〇円及び右各金員に対する被告原田勝雄は昭和四七年九月一六日から、同知多産業運輸株式会社は同年同月一四日から、支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

三  請求の原因

(一)  亡戸田忠次(明治三四年一一月三日生)は次の交通事故で死亡した。

1  日時 昭和四六年五月一〇日午後二時一五分頃

2  場所 豊橋市上野町上原一八番の五地先路上

3  加害車両 大型貨物自動車名古屋一え七一五号(被けん引車名古屋一え七二三号)

4  被害車両 自動二輪車豊橋市一五〇五

5  加害車両の保有者 被告知多産業運輸株式会社(以下被告会社という)

6  加害車両の運転者 被告原田勝雄

7  事故の態様及び過失の内容

前記日時場所において訴外亡戸田忠次は右被害車両を運転し道路左側を南進中、被告原田は、右訴外人の後方から右加害車両を運転し、右訴外人の自動二輪車を追越そうとしたのであるが、このような場合、被告原田としては、右自動二輪車の動向に注意して警告を与え、かつ相当の間隔をおいて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、右自動二輪車に接近しすぎて進行した過失により、亡戸田忠次が道路左端に駐車中の軽四輪自動車の開いていたドアに接触転倒せしめ、右訴外人を轢過し、即死するに至らしめたものである。

(二)  原告戸田宝は右訴外人の妻であり、その余の原告らは右訴外人の子である。

(三)  被告会社は右加害車両の保有者であるから自動車損害賠償保障法三条により、被告原田は民法七〇九条により原告らの損害を賠償する義務がある。

(四)  右により原告らのこうむつた損害は次のとおりである。

1  訴外亡戸田忠次の逸失利益

(1) 金三九八万四、〇五四円

亡戸田忠次は郵政省共済組合退職年金年額金六〇万六、四五四円の支給を受けていたところ、同人の一年間の相当生活費金一八万八、四〇〇円(一カ月金一万五、七〇〇円)を扣除し、その残金四一万八、〇五四円に同人の余命年数九・五三年に対しホフマン方式により年五分の割合の中間利息を扣除して算出した同人の得べかりし利益の損失分

(2) 金三二七万円

同人は訴外明和測量設計有限会社の顧問をしていたが給与として年額七五万円を受けていたので、同人の就労可能年数四・三六年につきホフマン方式により年五分の中間利息を扣除して算出した同人の得べかりし利益の損失分

(3) 金八六万三、二六二円

同人が神職として各所神社、結婚式場等から奉仕料として年額金一七万五、五〇〇円を受けていたので、右同人の就労可能年数四・三六年につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して算出した同人の得べかりし利益の損失分

(4) 以上の合計金八一一万七、三一六円を原告らは法定相続分に応じてそれぞれ相殺した。

2  原告戸田宝の損害

(1) 金六、二六〇円、昭和四六年五月一六日に支払つた亡戸田忠次の医療費

(2) 金七六万〇、六四五円、同年五月一六日から同年六月三日までに支払つた右同人の葬式費用

(3) 金五万円、右葬式のために支払つた雑費

3  原告らの慰藉料

各金一五〇万円

亡戸田忠次が本件交通事故で死亡したことによる原告らの受けた精神的苦痛は右の金額をもつて慰藉されるものである。

(五)  原告らは自動車損害賠償責任保険から金四五八万円の支払を受けたのでこれを、右の損害額から控除する。

(六)  よつて被告ら各自に対し、原告戸田宝は金三四九万七、〇一〇円その余の原告らは各金二二八万六、〇七〇円及びこれに対する訴状送達の翌日(被告会社は昭和四七年九月一四日、被告原田は同年九月一六日)から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  請求の原因に対する答弁

(一)1  請求の原因(一)1ないし6の事実は認める。

2  同7の事実中事故の態様(亡戸田忠次が軽四輪自動車の後部ドアに接触転倒したところを被告原田運転の自動車が轢過したこと)は認めるがその余の事実は否認する。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)  同(三)の事実中被告らに損害賠償義務があるとの点は争う。

(四)  同(四)の事実は争う。

1  同1について

(1) 同(1)の損害については、郵政省共済組合の退職年金は本人が死亡しても、その妻に対してその半額が支給されるのであるから、その半額を収入に算入すべきである。

(2) 亡戸田忠次の生活費は、同人の被扶養家族は、原告戸田宝のみであること。生活費は収入に応じて増加するものであること等に照して同人の総収入の四割以上を扣除すべきである。

2  同2(2)(3)の損害は、その全額を本件事故による損害と認むべきではなく、その内金二五万円を損害とすべきである。

3  原告らの慰藉料は過大請求である。何となれば亡戸田忠次は事故当時はもはや老令であり、一家の中心ではなかつたものであるからである。

(五)  同(五)の事実は認める。

五  抗弁

(一)  本件交通事故は、亡戸田忠次の前方不注意の過失と道路左側に違法駐車していた軽四輪自動車(本件事故現場付近は駐車禁止区域である)が原因であつて、被告原田勝雄は無過失である。

すなわち、被告原田は相当前方に亡戸田忠次の運転する自動二輪車を認めたが、同人は道路左端を時速四〇キロメートル位で進行していたのでこれを追抜こうとしたが、その際直通しても追抜きはできたのであるが、万一右同人に接触してはいけないと思い中心線より右側にはみ出る位に右側により、できる限り右同人との間隔をとり、警笛を鳴らして同人の右側を通過した。ところが同被告の車体(長さ一五メートル)が亡戸田忠次の右側を通過する寸前に同人は自己の進路前方に駐車中の前記軽四輪自動車の後部ドアに接触転倒し、同被告の自動車に轢過されたのである。

また同被告及び被告会社は右自動車の運行につき注意を怠つた点はなく、車両に機能上及び構造上の欠陥もなかつたものである。

したがつて、被告会社は、本件事故について原告らに対して損害賠償責任はない。

(二)  仮に被告原田に過失があつたとしても、前記のように亡戸田忠次にも前方不注意の過失があり、この過失は損害額の算定にあたり七割程度、しんしやくさるべきである。

六  抗弁に対する答弁

抗弁事実は全部否認する。

七  証拠関係〔略〕

理由

一  亡戸田忠次(明治三四年一一月二日生)が、昭和四六年五月一〇日午後二時一五分頃、豊橋市上野町上原一八番の五地先の道路左側を自動二輪車を運転して南進中、前方に駐車中の軽四輪自動車に接触転倒したところ、被告原田勝雄運転の大型貨物自動車が併進(追抜)してきて、右訴外人を轢過し右同人が即死したこと、原告戸田宝が右同人の妻であり、その余の原告らは右同人の子であることは当事者間に争いがない。

二  そこでまず、本件事故が被告原田の過失によるものか否かについて検討する。

〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

被告原田勝雄は前記日時場所を大型貨物自動車を運転して時速約四二・三キロメートルで南進中、前方道路左端を自動二輪車を運転して進行している亡戸田忠次を発見し、同時に更にその前方道路左側に、軽四輪自動車(後部にドアがついているライトバン)が駐車しているのを発見した。右ライトバンは後部ドアを右側に開いていた。同被告は右同人の右側を追越そうとして警音器を二回位鳴らして、ハンドルを若干右に切り、道路中央線上に自動車の中心線がくるようにして時速約五二・三キロメートルに加速して追越を継続した。このような場合には同被告としては右同人の自動二輪車の動向に注意し、安全な間隔を保ち、その右側を迂回して追越し、危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、前記ライトバンの後部ドアが開いているのにも気付かないで、右同人との間に十分な間隔を保たないで追越そうとしたのである。そして、右のライトバンが駐車している付近で同被告の自動車と右同人の自動二輪車が併進状態になつたとき、右同人の自動二輪車が右ライトバンの開いている後部ドアに接触して、右同人は右側に転倒し、同被告のトラツクに轢過されたのである。

以上の事実が認められ、被告原田勝雄本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の認定事実によると、本件交通事故は被告原田勝雄の過失、すなわち亡戸田忠次の運転する自動二輪車の右側を追越すに際し、十分な間隔を置かなかつた過失によつて発生したものということができる。

しかし、一方亡戸田忠次にも過失なしとしない。何となれば被告原田は右同人の自動二輪車を追越すに際して警告を与えていたのであり、しかも、右同人の前方にライトバンが後部ドアを開けて駐車していたのであるから、前方を注意して自動二輪車を運転するべき義務があつたのに、これを怠つた過失があるということができるのである。

そして両者の過失の場合は前者が七割、後者が三割程度とするのが相当であり、これは後記の損害額の算定にあたつてしんしやくさるべきである。

三  次に原告らの損害額について審案する。

(一)  亡戸田忠次の逸失利益について

1  〔証拠略〕によると、右同人は本件事故当時郵政省共済組合の年金を年額金六〇万六、四五四円支給されていたことが認められる。

しかして右同人が死亡した結果、右の年金のうち半額の金三〇万三、二二七円が、原告戸田宝に支給されるものであるから、右の年金のうち年額金三〇万三、二二七円が亡戸田忠次の逸失利益となるものといわなければならない。

2  原告らは右の年金から、右同人の生活費を扣除して逸出利益を算定しているが、右のように算定するべき合理的な根拠は見出しがたい。

右同人の生活費は、同人の年令、扶養家族(弁論の全趣旨によれば原告戸田宝だけである)等諸般の事情を考慮すると、右同人の全収入のうちの四割とするのが相当である。

そして右同人の平均余命を九年間(正確には九・五三年であるが控え目に計算する)とし金三〇万三、二二七円の六割にホフマン式計算により年五分の割合の中間利息を控除すると金一三二万四、一六七円(一円以下切捨以下同じ)となる。

3  次に〔証拠略〕を総合すると亡戸田忠次は本件事故当時明和測量設計有限会社から年額金七五万円の給与を得ていたこと、神職をしていた関係で、年額合計金一七万五、五〇〇円以上の収入があつたことが認められる。

そこで右の合計額から右同人の生活費四割を控除し、残額に右同人の稼働可能年数を四年間(控え目に計算する)として、ホフマン方式で年五分の割合による中間利息を控除すると金一九七万九、二五六円となるわけである。

4  以上の合計に前記過失相殺をなして右同人の得べかりし利益の喪失を金二三一万二、三九六円に減額した金員を原告らは法定相続分に応じて相続したことになるわけである。

(二)1  〔証拠略〕によると同原告は昭和四六年五月一六日金六、二六〇円の亡戸田忠次の診料費を支出していることが認められる。

右は同原告の損害であるが、前記過失相殺をなし、金四三八二円に減額する。

2  次に原告戸田宝の支出した亡戸田忠次の葬式費用は金三〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある同原告の損害であるとすべきところ前記過失相殺をなして金二一万円に減額する。

(三)  次に原告らの慰藉料は、亡戸田忠次の年令、職業その他本件に現われた一切の事情を総合すると、原告戸田宝は金九〇万円、その余の原告らは各金六〇万円をもつて相当とする。

四  次に原告らは自動車損害賠償責件保険から金四五八万円の支払を受けていることは当事者間に争いがないので、右の金額を原告らの法定相続分に応じて、以上の損害額からそれぞれ控除することとする。

五  してみれば、被告ら各自は、本件損害賠償として原告戸田宝に対し金三五万八、五一五円、その余の原告らに対し各金九万六、〇八九円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明白な被告会社は昭和四七年九月一四日から、被告原田は同月一六日から、支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、民事訴訟法九二条本文一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋爽一郎)

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